建設業の会計処理

建設業の決算と変更届

商品やサービスを提供して代価を得るという一般的な商行為に対して、建設業は、請負契約にもとづいて工事を施工するという営業形態であり、その特性から、会計処理のしかたも通常の企業会計とは異なる特徴があります。例えば、次のような建設業特有のテーマを挙げることができます。

  • 完成工事にかかる収益の計上のしかた
  • 工事にかかる原価計算の考え方
  • 未成工事における経理の流れ
  • 建設機械類の経理処理
  • JV(共同企業体)の会計

許可を受けて営業する建設業者は、毎年事業年度が終わる度に、決算に係る変更届(便宜上、決算変更届と書きます)を許可を受けた行政庁に届け出ることが義務づけられています。この決算変更届は、終了した事業年度における工事の実績、決算に係る財務諸表などを提出するのですが、その要領が、建設業法施行規則によって定められています。したがって、建設業者はこの法令の基準に従って会計処理を行なうことが求められます。
具体的には、貸借対照表、損益計算書における勘定科目の設定に加え原価計算のしかたなどが示されていますので、日常的な経理に当たってこれに準じた処理を行なうよう配慮する必要があります。

建設業会計特有の主な勘定科目

施行規則に定める様式の内容については、「建設業法施行規則別記様式第15号及び第16号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類を定める件」によって各勘定科目についての考え方が示されています。参考までに、貸借対照表の勘定科目から主なものをいくつか引きます。

資産の部・流動資産から

  • 完成工事未収入金
    完成工事高に計上した工事に係る請負代金(税抜方式を採用する場合も取引に係る消費税額及び地方消費税額を含む。以下同じ。)の未収額。ただし、このうち破産債権、再生債権、更生債権その他これらに準ずる債権で決算期後1年以内に弁済を受けられないことが明らかなものは、投資その他の資産に記載する
  • 未成工事支出金
    完成工事原価に計上していない工事費並びに材料の購入及び外注のための前渡金及び手付金等
  • 材料貯蔵品
    手持ちの工事用材料及び消耗工具器具等並びに事務用消耗品等のうち未成工事支出金、完成工事原価又は販売費及び一般管理費として処理されなかつたもの

負債の部・流動負債から

  • 工事未払金
    工事費の未払額(工事原価に算入されるべき材料貯蔵品購入代金等を含む。)。ただし、税抜方式を採用する場合も取引に係る消費税額及び地方消費税額を含む
  • 未成工事受入金
    請負代金の受入高のうち完成工事高に計上していないもの

建設業会計の実務

このように建設業者は、事業の経理について建設業会計に則った会計処理を行ない、行政庁に決算変更届を届け出ることになります。

上にも挙げましたが、建設業特有の問題として、収支計算の確定の時期に留意が求められます。工事ごとに収支や原価計算を行なう場合に、工期や決算期によって確定のタイミングをどうするかという問題があります。これには完成工事基準と工事進行基準という二通りの考え方があります。完成工事基準は文字どおり、工事の完成ごとに収支等の確定を行なう方法で、従来はこの方式が広く行なわれていたといいます。これに対して、工事進行基準は工事の進行に合せて工期を区分し収支計算等を区分する方法です。工期が長期にわたる場合などもあり、会計処理上は、この方が合理的なので建設業会計においては工事進行基準が推奨され、請負金額や工期が一定以上の場合は、これによることが求められています。

なお、建設業者が公共工事を請け負うためには、あらかじめ経営事項審査を受審し、発注機関の入札参加資格登録を行なうことになりますが、経営状況分析の資料として作成する財務諸表は消費税抜きとする(課税事業者の場合)ように指示されています。また、建設業以外の事業を兼業している場合は、収益や原価計算を建設業とその他の兼業種目と区分して処理するように求められていますので、こうした部分にも配慮が必要です。

今日では経理事務は会計ソフトによることが一般的になっていますが、建設業会計に特化したソフトは多くないように見受けます。ほとんどのソフトは一般的な企業会計に従った仕様になっているので、処理に苦慮する一面もあるようです。ただ、会計ソフトの中には、勘定科目をカスタマイズできる機能を搭載しているものもありますから、そうした機能を活用して望ましい処理のしかたを工夫することもできそうです。

とりわけ経営事項審査を受審する場合には、経営状況を示すこれらの財務資料はその評価に大きく影響しますから、日々の実務において気をつけておくといいでしょう。